ことば / 建築の表層

ことば / 建築の表層
2008年11月23日
絵を描く時に、目に見える対象を表現するのではなく、骨格或いは内部に潜む本質的なものをそこから自分なりに探し出し、それを表現すると良い絵が描けるなどと聞きます。

建築も同じ事で表層の追求にはあまり意味がなく、内部の人が住む空間にこそ本質があると考えますが、それを得るためには住まう人との対話が建築を創造する上で不可欠であります。また対話の際には全てを受け入れてしまうやり方もクライアントにとっては不幸なことであり、クライアントと造り手とがお互いに協力し合い求めるものを可視化するまで話合うことが大切であると考えます。

しかしながら表層には意味がないと言うことではないと思います。人間の皮膚と同じように臓器、骨格、運動機能、そしてそれらを包み込む表層には本質ではないにしろ役割がある訳です。ものを創る場合、先に皮膚を考え、後で臓器を造るのではなく、その逆が真実なのは明らかだと思います。更に付け加えるとそれは同時であるべきだろうと考えます。生物の存在のように、必然性が一致した瞬間から始まるのです。

表層は建築を創る上での第一優先事項では決してありませんが、しかし上述のように内部にあるものの一番外側の役割があります。内部の表層表現、価値観の表現、或いはそれらが周辺環境の一要因となり、多くの言葉で外に向かって語りかけるようになります。建築が住まう人の発する「ことば」に成り代わり。

設計から工事完成まで長い時間が掛かりましたが、その時間の中でクライアントの言葉と私の言葉とをテーブルの上で選り分け漸く外に向かって語りかけることが出来る「ことば」を組み立てることが出来ました。それぞれの住宅にはそれぞれの本質が存在しそれらを表現する「ことば」達が存在する。そのことばを探し求めるのは本当に楽しいものです。

建築草紙に戻る

0 件のコメント:

コメントを投稿